青い龍

 Photo        
              絵=kohji.ito 題=青い龍
    
    除夜の鐘を聞きながら
    
    どこに参拝するでも無く
    
    この一年を振り返っている。
    
    様々な出来事が、
    
    他人の事のように脳裏に
    
    浮かんでは消えて行く。
    
    変哲もない日々を送っていた私に、
    
    新しい年を迎える気持が無いまま、
    
    ただ除夜の鐘の音を数えている。
    
    幾つまで数えたのか定かでは無い。
    
    私は初日の出を見に山を登り
    
    雲海の中に青い龍を見た。
    
    青い龍の鱗は日の出を受けて
    
    黄金色にうねり輝く。
    
    山の峯は黒褐色に聳え立ち、
    
    あふれる気力を解き放つ。
    
    湧き出す雲海に秘められた
    
    幸の願いは天地を問わず
    
    生ける物の体内の核と成る。
    
    青い龍の爪に握られた、
    
    宝玉は生命力の光を放ち
    
    勇気と希望の絆が結び合う。
    
    平和を愛する幾万の人々の思いを、
    
    元日の雲海に現れた青い龍に乗せ
    
    遍く照らす神々しい日の出と共に
    
    暖かく、明るい希望の輪を広げ
    
    この1年の幸せを願い年の始まりを祝いたい。
    
    2012年 元旦

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赤いリボン

Photo               絵=kohji.ito 題=赤いリボン
        
        モスグリーンの包装紙に添えられて、
        
        オルゴールの箱の中にしまってある。
        
        2センチ幅の赤いリボン。
        
        両端に白い箔の線が引いてある。
        
        長さは、長いとも短いとも言えません。
        
        小さな、金銀のお星さまが
        
        刺繍されています。
        
        赤い実を飾った柊の葉にも
        
        お星様が付いている。
        
        黒く三角にとがった鼻のスノーマンは、

        青い帽子と青いマフラーがお気に入り。
        
        白い鐘、赤い鐘から
        
        色々な音符記号が流れ出ています。
        
        白い羊さんも流れ出てきます。
        
        少女を迎えに躍り出てきます。
        
        赤いリボンから躍り出て
        
        子猫のミィヤーと少女を誘います。
        
        少女がぐずぐずしていると
        
        子猫のミィヤーはスノーマンの手を取り
        
        赤いリボンの中へ入ります。
        
        パジャマ姿の少女は涙目で
        
        ポーポーと鳴く方へ顔を上げる。
        
        白い鳩がオリーブの木の枝をくわえ
        
        少女の肩に止まります。
        
        少女は白い鳩に言いました。
        
        「私を赤いリボンの中へ連れていって」
        
        白い鳩がフワフワと羽を広げると
        
        オリーブの香りが、ほのかに漂い
        
        少女の回りに留まると
        
        小女はピンクのドレスに白いブーケを
        
        両手に持ち、スノーマンのエスコートで
        
        赤いリボンの踊りの輪の中に入りました。
        
        鐘の音が大きな音で時を告げ
        
        踊りの輪が大きく広がり皆で祝います。
        
        メリークリスマス
        
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雀のトレンチコート

Photo
絵=kohji.ito 題=雀のトレンチコート

元来、雀にトレンチコートなる物を語る必要性はない。

あちこちと落ち着きのない雀は、

着たきり雀の代名詞で良い。

いやいや、それでは雀がかわいそう、

雀にもオシャレをする権利は有る。

雀の言分によると、

私たちは落ち着きのない雀。

それ故に、行動的に優れた

ファッションセンスを必要とする。

トレンチコートはバーバリー社に限ると言い放つ。

確かに雀と言う奴はハードボイルド的だ。

反射神経は敏捷(びんしょう)である。

雨の日も傘をささない雀に

バーバリー社のトレンチコートは、

これから厳しい季節には丁度良い。

雀にトレンチコート。

想像しても、良いかも。

北風が波しぶきを荒らす波止場に、

バーバリーコートを身に纏い、

何を待つのか一羽の雀。

パイプを片手に深い霧にシルエットが揺れる。

ボーと船の汽笛が灰色に霞み、

地平線に吸い込まれていく。

ビュービビュと艫綱(ともづな)が風を切る。

コートの襟を立て、風に立ち向かう雀。

大きく唸る外国航路の船体。

風に呷られた波が厚い甲板を打つ。

灯台の明かりが、薄く微かに、

ハイヒールの足音を拾う。

波しぶきに濡れた、波止場のアスファルトに

ベネチアンブルーのエナメルカラーが鮮やかに光る。

コツコツと霧でむせる、波止場に

ベネチアブルーの足音が響く。


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子鹿

 Photo                       絵=kohji.ito 題=白い子鹿   
    
    秋の夕日が森の奥へと差し込む
    
    森の霧を通して透明な虹色へ変わる。
    
    今年の春に生まれた白い子鹿。
    
    赤い紅葉の葉とは対照的に、
        
    全身を白い毛並で覆(おお)われている。
    
    黒い大きな瞳が紅葉の葉を追う。
    
    首をもみじの幹(みき)にこすりつけ、
    
    幼いながらも、匂い付けをしている。
    
    臭いを確かめるピンク色の鼻。
    
    ギンモクセイの香りを乗せた、
    
    冷たい風が子鹿の周囲をクルリクルリと廻り、
    
    色とりどりの枯れ葉が空から舞落ちて来た。
    
    大きな楓の葉。小さな、もみじの葉っぱ。
    
    小判のようなブナの葉、一回り小さいカシの葉。
    
    細長いクヌギの葉っぱ。
    
    いろんな形、沢山の色の葉っぱが、
    
    フワフワと、クルクルと回りながら、
    
    こんもりと盛り上がった、
    
    落ち葉の上に重なり積(つも)る。
    
    次から次へと、色が重なり合う。
    
    赤や、黄色い葉っぱ、緑色、茶色の葉っぱ。
    
    盛り上がった落ち葉の上に、
    
    錦に絹を織り上げていくように覆(おお)って行く。
    
    一枚の赤いもみじの葉っぱが、
    
    白い子鹿の首に止まった。
    
    促(うなが)されるように半歩、蹄(ひづめ)を進め、
    
    こんもりと盛り上がった落ち葉の前で、
    
    ピンク色の鼻をヒクヒクと使い匂いを嗅ぐ。

    首を2、3回小さく振った。
    
    可愛らしい舌を出し泣声が夕霧に霞(かす)む。
    
    林の奥でヒューと鳴く声に、その場を立ち去る。
    
    何処に居たのか狐の家族が、
    
    盛り上がった落ち葉の中から鹿の死体を、
    
    引きずり出し藪の中へと持ち去った。
  
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9月の風に乗って

Photo
                  絵=kohji.ito 題=9月の風
        
        陽は短く、影は長く。
        
        風はひんやりと野山を渡る。
        
        山の木々も色を変えつつ。
        
        ひんやりとした風を下界に降ろす。
        
        もう、蝉は鳴く事もなく。
        
        木の葉に抜け殻だけが残る。
        
        足を入れてみた。
        
        何の違和感(いわかん)もなく、足が入っていく。
        
        腰まで入れてみた、何ともなかった。
        
        有るのか無いのか解らずに、首まで入れた。
        
        首から下は、蝉の抜け殻だ。
        
        首も入れた。全身がスポリと入った。
        
        何処に入っているか、入っていないのか、
        
        分からない空間に浮いている。
        
        地面から離れた様に 瞬間移動した。
        
        僕の体が風に流され飛んでいる。
        
        僕が空を飛んでいる。
        
        大きい翼で大空を舞うコンドルのように。
        
        風が吹くと、旋回しながら上昇する。
        
        風が止まると、おおきな翼を拡げ、
        
        広大な大地の上を悠々と飛行する。
        
        僕の2時後方から、声を掛けられた。
        
        貴方は何に乗って来たの。
        
        僕は何も乗ってないよ、自分で飛んでいるよ。
        
        そうじゃないよと、僕の前を飛行する老人が。
        
        わしは、ザリガニの抜け殻に入って来たのだ。
        
        私は、ウスバカゲロウの幼虫に乗って来たの。

        ぼくは、オニヤンマトンボの幼虫の抜け殻だよ。
        
        こうして皆、9月の風に乗りにくるのだ。
               
        もうじき、うろこ雲の襞(ひだ)が茜色に染まる。
        
        茜色に染まる宇宙のスペクタクル。
        
        夕焼けの祭典に、私たちは招待された。
        
        さあ行こう、9月の風に乗って。
        
        茜色に輝く秋の夕焼けの中に。

        
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8月の怪談話(行水)

 Photo                       絵=kohji.ito 題=行水


    夕陽が傾(かたむ)き始める頃に、爪弾(つまび)く琴の音。

    チリン、チリリ〜チリチリリ〜と風鈴が鳴る。

    昼の暑さに汗ばむ肉を、

    井戸水を張った盥(たらい)に浸ける。

    太い動脈が小刻みに喜ぶ。

    毛細血管から、すがすがしい水音が聞こえる。

    黄色い瓜の花が大きな葉を押しのけ、

    竹垣にいくつかの顔を出す。

    竹垣の向こうは、ろくろ首の姉さんの住まい。

    それも8月だけの、仮住まいとか。

    確か大家さんは、按摩(あんま)業の宅悦さんです。

    そうです、四谷、地獄宿の宅悦さんです。

    まあ、そんな事はどうでもよい。

    お隣さんも、行水をするのですが、

    やはり女性の行水です。

    さらさら〜と、冷たい水がもち肌を、

    すべるように流れおちる音は、

    琴の弦と琴爪が柳の風に絡み合う音色。

    手桶(ておけ)に手ぬぐいを浸(ひた)して、

    手ぬぐいを絞(しぼ)る、色白の長い首の汗を拭う。

    ろくろ姉さんの髪洗いは、右からかな、

    左の肩のラインは奇麗だろうな。

    月明かりに浮かぶ、黒い濡れ髪に、

    はんなり染まった血色の肌。

    疑い深い、黒い瞳で盥(たらい)に映る月を見る。

    恥ずかしそうに、月が盥(たらい)の中で揺れる。

    先日、ろくろ首の姉さんが、

    背中でも流してあげましようかと、

    竹垣から首を出した。

    僕は前を隠す暇(ひま)も無く顔を赤くして、

    断ると後で呪われると思い、

    お願いしますと言ってしまった。

    玄関の開く音に僕は何を思ったのだろう。

    この8月も、ろくろ首の姉さんは来ています。

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七夕とカマキリ虫。

Photo                 絵=kohji.ito 題=想い  
   
   清々(すがすが)しく青々と広がる草の上で
   
   汚れきった、カビだらけの心を曝(さら)す。
   
   7月の乾いた風がカビの胞子を取り去って行く。
   
   清らかに透き通る星空を仰(あお)ぎ見。
   
   今更ながらと、過去を問い。
   
   カマキリ虫の今までが、

   あの星空のように清らかなれば、

   憧(あこが)れの、織り姫さまとデートなんか出来たりして。

   僕、カマキリ虫は喜んだりして。

   なんだか考えただけで恥ずかしい、でも嬉しい。

   考えることは、ただ、織り姫さまの幸せ。

   まだ見たことがない、織り姫さまだけど。

   下界に生きる全ての者のアイドル。

   しかし、その姿を見た者は誰もいないと聞く。

   また、別の者は言う。

   姿を見た者は、天の川の一ツ星になると言う。

   ああ〜僕、カマキリ虫も、

   一目お会いして、天の川の星になり。

   いつも織り姫さまのお側に置いていただきたい。

   カマキリ虫は知ります、

   彦星さまと、織り姫さまの愛の深さを。

   織り姫さまの一途な思いに。

   愛と言う尊(とうと)さを。

   カマキリ虫は願(ねがい)います。

   天の川の一ツの星に成り、

   7月7日の七夕の夜を、満天の星で照らし出し。

   恋を求める者の願いが、叶(かな)うように、

   星々の天の川で、赤い糸を染めラクダの背に乗せ、

   愛おしい人の心に届けましょう。

   愛する者同士、ラクダの背に揺られ、

   天の川を渡り、幸せの時へと旅立つ。

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街に傘の花が開く

Photo                   絵=kohji.ito 題=ウインドウの女

     6月の街に傘の花が開く。

     色とりどりの傘に雨が音を立てあたる。

     明るい雨と、重い雨。

     女が現れるのは、重い雨の日。

     スプリングコートの襟を立て、

     カンカン帽子を深めに被る。

     煙草の煙を燻(くゆ)らせながら。

     リップで濡れた唇を

     煙草の火が照らし出す。

     幾つもの傘が行き交う街に、

     女は傘も差さずに立っている。

     傘を持っていないわけではない。

     右手の指で遊び持つ。

     あざやかな空色のステッキ傘。

     パステルピンクのコートに、

     薄い緑のVニット。

     目の粗いメッシュタイツが女のはだを暈(ぼか)す。

     淡いパールピンクのショートブーツ

     灰色に濡れたアスファルトの雨を遮(さえぎ)り、

     街灯の明かりを、少し避けて立つ女。

     細身の体がウインドウに映る。

     ショートカットの髪型。

     耳朶に下がる黒いオニキスの石が、

     大きな黒い瞳を際立たせる。

     短い髪を梳くような仕草に、

     赤いルビーの指輪と黒いオニキスの石が指の間を交差する。

     薄暗い街灯の明かりを求めて蛾が集まる。

     街灯の明かりに触れたのであろう、

     アスファルトの地面に落ちて狼狽(うろた)えて死んでいく。

     1羽、2羽と冷たいアスファルトで死んでいく。

     その様子を見ながら、女は空色のシルク傘を差して

     ネオン街へと姿を染めて行った。

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山ツツジとクマンバチ。

Photo                   絵=kohji.ito 題=燃える思い。


   新緑の山々に朱の色を添える山ツツジ。

   花びらは薄く紅を差し新緑を透かす。

   翠黛(すいたい)の面影を偲ぶも。

   おおきな羽音のクマンバチが、

   花弁を押し分け甘い蜜を求める。

   見ていると、その仕草が滑稽に見える。

   山ツツジとクマンバチはとても、

   お似合いのカップルだ。

   クマンバチにはすこし悪いが、

   金色のガウンに太めの黒のタイツ姿は、

   何処かの国のキング。

   山ツツジの花は、ダイヤのクイン。

   クマンバチのキングが、

   ホバーリング飛行しながら、

   華やかに装った、山ツツジのクインに、

   愛の囁きならぬ羽音で口説いているのが、

   知りたくもあり、恥ずかしくも思う。 

   それにしても、クマンバチをあれだけ虜にする、

   山ツツジの魅力は、僕にも分かる様な気がする。

   芳しく漂い香る蜜蝋の誘い。

   その在処を指さんとする蜜標は怪しげに、

   中央へと、花びらに溶け込む。

   どのツツジも、花弁を大きく広げ。

   今を盛りと、新緑の宴に美しさを競い合い舞う。

   群がる者、多々あるが、

   やはりクマンバチの容貌が威圧する。

   キングの貫禄であろうか。

   一輪、一輪、紳士として挨拶をして行くキング。

   美しく新緑の中で凛(りん)と花弁を開く山ツツジ。

   その美しい気品は新緑を飾り、

   5月の山の貴婦人に相応しい。

    山ツツジの花言葉 =燃える思い。

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春が生まれる。

冒頭

東北関東大地震津波の時間の経過と共に被害の規模が大きく、

報道される都度、恐怖と悲しみを覚えます。

現地で災害に遭われた地域の皆様の、ご健康を願います。

また、原子力災害で避難されている方々の、先の見えない

不安な日々は堪え難い事とお察しします。

何も出来ない僕ですが、一時の春を送りたいと思います。

皆様のご健康をお祈りいたします。

Photo

4月号 春が生まれる     絵=kohji.ito 題=春が生まれる。

春が生まれてくる。

ポン、ポカ、ポカポカ。

春が生まれる。

フニフニ〜ヒニャ〜、

ポコポコポコ、と、春が生まれる。

山女に急かされながら、春が生まれる。

いくつもの春が、重なり合い水面で割れる。

ちいさい春は、ポコポコ。

おおきな春は、ボコボコボコ。

川の中から躍り出る。

次から次へと、躍り出る。

渓流のあちら、こちらで躍り出る。

山女さんに連れられて、新しい春が泳ぎ出る。

川の流れに顔を出す、ポンと春が顔を出す。

川藻の中に隠れても、山女のおじさん、お見通し。

小さき春の者たちよ、皆がお前たちを待っている。

春の陽ざしは母さんが早くおいでと呼んでいる。

麓(ふもと)の里は春盛り、皆が楽しく遊んでいる。

山に春を告げましょう。

谷間に春を告げましょう。

春が来たよと告げましょう。

早く起きなと告げましょう。

小鳥は、春の歌うたい、

草木は青々とした新芽を開く。

ひきがえるのおばさんが、

眠たい眼で春を見る。

ノソノソと春を見る。

おばさん春だよ、こんにちは。

これから皆を起こしに行くの、

春が来たよと起こしに行くの。

お山に春がやって来た。

暖かい春が生まれている。

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